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最高裁判所第三小法廷 昭和30年(あ)2059号 判決 1957年12月10日

理由

(前略)

麻薬取締法違反被告事件の違反物件が、同法の取締の対象となる麻薬の成分を含有するかどうかは専門的知識を持って始めて判明し、素人の推断を許さない科学上の問題であるから、原則として専門家の鑑定によるべきことは、所論のとおりであるけれども、右違反物件が同法所定の麻薬の成分を含有することにつき訴訟当事者において争いがなく、かつ、鑑定以外の他の高度の信用性を有する証拠によって該事実が認められる上に、他にこれに反する証拠が存在しないというような場合には、専門家の鑑定のみに依拠することなく、他の証拠により右の事実を認定したからといって、必ずしも不当であるということはできない。記録に徴すると、本件の商品名スートン注射薬一cc入合計約五千本が検挙当時存在せず、したがって、その鑑定を命ずることができなかったものであるけれども、該物件が昭和二九年政令第二二号麻薬を指定する政令四号の麻薬に該当することについては第一審において、検察官はもとより被告人及び弁護人においてもこれを争わなかったところであり、この事実と薬品商店員である被告人の検察官及び司法警察職員に対する各供述調書、右物件を製造した製薬業高橋如宏の司法警察員に対する供述調書並びに被告人より右物件を譲り受けた乙種薬剤師の免許を有する城内初夫の検察官及び司法警察職員に対する各供述調書を総合すれば、右物件が前示政令四号所定の麻薬であることが認められる上に該物件が麻薬ではなかったとの証拠は全然これを発見することができないのであるから原判決が専門家の鑑定によることなく、本件商品名スートン注射薬を法の取締の対象となっている右政令四号所定の麻薬と認定したことは、必ずしも不当であるということはできない。

(後略)

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